1-伝えたくない

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 私は現状に満足していた。 「それで、その純愛物語はどういうお話なの?」 「俺には興味ないけど内容には興味あるんだな。別にいいけどさー。今読んでるのは竜狩りの里に生まれた竜を狩れない女の子と、竜に育てられた男の子の話だよ。上中下巻とあって、俺が呼んでるのは中巻。もし気になるなら、今度上巻を貸すーーどうか、したのか」 「ううん、平気。素敵な話ね、でも今は私も読みかけの本があるから遠慮しとく」  私は早口でまくし立てると、アオトの視線から逃れるように数歩前に出て歩いた。  竜狩りーーその言葉が深く胸に突き刺さる。どうしても忘れることができない忌まわしき記憶が、今なお鮮明に蘇る。  あぁ、気分が悪い。今日はせっかくの休日なのに、ジェシカもお散歩を楽しみにしてたのに。  キューーン 「ごめんねジェシカ、あたなを不安がらせてしまって。大丈夫よ、大丈夫」  ジェシカは優しい竜だ。私の異変に気付いて直ぐに励まそうとしてくれる。  そうよ、私はあの日から、竜を護ると決めているの。こんな素敵な心を持った竜たちを、もう狩らせはしないんだから。 「……! なにっ」  急に地面が胎動し始めた。唸るように、うねるように動く地面は、岩肌を砕き、歪ませる。 「地震か! ジェシカ、背中借りるぞ。クレハも乗れ!」 「あ、ありがとう」  地震なんて、人に予知できるはずがない。そんなことができるのは、感覚の鋭い人以外の動物だけだ。しかし、動物たちのそんな騒がしさは感じなかったが。 「ジェシカ、もしかして分かってたの?」  やけに冷静だった。それがむしろ違和感だった。  竜が、急に地震が来て平静でいられるなんて、どれだけ訓練されていても不可能だろう。一時の迷いや混乱は見られるはずだ。  しかしジェシカは飛んでみせた。人を二人も乗せ、こんなにも安定した飛行ができるということは、落ち着いているということに他ならない。冷静に状況を判断し、空中から地面の様子を伺うなんて、こうなることを予期していたからこそ、できるのではないだろうか。 「そうなのか、ジェシカ」  アオトに問われ、ジェシカはゆっくりと頭を動かした。 「急にここへ来たいと言い出したのは、ただ散歩がしたいだけではなく、これを察してのことだったのか」  そうしている間にも、地面は振動し続け、形を変えていく。
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