1-伝えたくない

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「ジェシカが私たちを導いてくれたんだわ。鋭く繊細な竜が地震から逃げるのではなく立ち向かったんだもの、私たちもそれに答えなくては」 「そうだな」  その時、岩山の頂上から何かが流れ落ちてくるのが見えた。 「あれはもしかして、溶岩流。大変だわ、急いで人の多いところへ行って救助をーー、アオト?! 早くジェシカに観光地の方へ向かわせて!」  揺すっても、叩いても、アオトは身動き一つとらなかった。ただ迫り来る高温で溶けた岩を見つめるばかり。表情は背後からでよくわからないけれど……。  これは、よろしくないわね。  私は咄嗟にジェシカの綱を握るアオトの手に自らのそれを重ねて叫んだ。 「自分に打ち勝ちなさい! そして乗り越えなさい! 人々を守るのが我らガーディアン・フォースの使命でしょう!! それすらも忘れたっていうの、このだめ上司っ」  私は精一杯の思いを込めて綱を振るった。ジェシカは滞空をやめ空を翔ける。 「わり、ちょっと寝てたみたい」  ジェシカが猛然と風を切り出したことでアオトも我に帰ったのか、縄を握る手に力が宿った。 「馬鹿上司、竜の上でしかかっこよくないんだからしっかりなさいよ! ここはアオトの独壇場でしょ。ここで働かなくてどこで働くってのよ」 「ですよねー。いっちょやりますかぁ」  アオトが体を傾けるのに合わせて私も重心を移動させる。体勢はすでに救助する時のそれにしている。 「とりあえず、観光地までは飛ばすから、人が見えてきたら逃げ遅れてる人や怪我人がいないか警戒して」 「了解」 「もし岩とかが人のいる方向に転がっていたら遠慮なく棍で破壊しちゃってね」 「もちろんよ」  アオトが溶岩流を見て硬直した理由、なんとなく察しはついた。けど、今はそんなことを気にしている場合ではない。アオトが正気に戻ったのなら、私たちはたとえ休日だろうと使命を果たすだけだ。  しばらく岩山周辺を警戒しながら飛んでいた。溶岩流はゆっくりとだが確実に麓へ近づいていたが、人々の反応も早く迅速に対応できたのだろう、山の中腹に人気はなく、すでに避難が終わっているようだった。そのまま徐々に標高を落とし山を下っていく。ところどころに避難する際邪魔になるからと捨てられていった荷物が伺えたが、人の姿はなかった。 「良かった、他のガーディアン・フォースがうまく誘導したみたいだな」 「ここには交代で人が派遣されてるしね」
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