スキマ。

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A「乳離れ、千早振る、遅払い」 案の定、登校もせずに今日も彼女はここにいた。 A「池畔、地番、ちび、ちびちび」 彼女が口ずさむのは二人で決めた合言葉。ではなく、膝の上に広げるのは呪文のひとつも載ってない只の携帯辞書。 この夏、彼女は奇病かかった。 睡眠中、身体の何処かにスキマができて、その都度記憶が抜け落ちていく奇病。 現代医学では治療不可能。 今ある対処法は、差し出す語彙を蓄積すること。 別の大事なものが、すり抜けてしまわないように。 B「大丈夫か?」 A「貴方には関係ないことでしょ」 B「なくはないだろ」 A「ないわ。ただ盗み聞きが趣味の他人の貴方にはね」 B「オレがお前を治してやれるとしたら?」 A「‥‥‥それでも貴方は他人のままよ」 彼女のスキマがその他人で埋められると判明するのは、オレ達がこの町を出ると決めた、来年の今日のことだ。
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