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五日目から先は数えていなかったが、漫然と十日ほど経った頃には、俺は死を明らかに身近に意識するようになっていた。いや、そのときは既にちょうどセミの抜け殻のようにやせ細った吉田だって同じ事を考えていたはずだ。
ある夜、走馬灯のようなものが流れ始めたときは、さすがに俺もここまでかと覚悟したものだが、結局それは夢だった。馬鹿みたいに現実感のある夢で、今にしても本当に走馬灯を見たのやもしれぬと思う。
あの時、もし男を助けていたなら。確かにボートは沈んだかもしれないが、罪の意識に苛まれることも、この生き地獄を味わうこともなかったのではないか。無常にも彼の腕を蹴り払った俺を見て、男は何を思ったのだろうか。俺に向けられた言葉は何か。怨念か、憤怒か、怨嗟か。
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