1 アザミ(復讐)

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男の言葉を聞いて、メンバーは互いに顔を見合わせた。 「でもなぁ……」 声にならない視線で言葉を交わし合う。 やがてひとりが、恐る恐るといった調子で口火を切った。 「あんた本当に、有坂龍一とは何の関係もないのか?」 メンバーの前に立つのは、裏の世界では有名な男の顔だ。 茶色い瞳に茶色い髪。 高級そうなスーツをスラリと身につけた優雅な佇まいの、その正体は政府の秘密工作員。 モデルのような整った顔立ちは、有坂龍一そのものの顔。 だが男は、 「何度も言わせないでよ。ボクはすでに有坂さんでもあり、でも君たちの質問に答えるなら有坂さんではない」  ――ダン! いきなり壁に拳を叩きつける。 「まどろっこしい話は苦手なんだよ。もうお前らじゃボクを満足させられない」 ダン、ダン、ダン! 何度も壁を殴りつける。 パンチ力が強すぎて、男の拳の方が砕けた。 だが男は壁を殴るのを止めず、その白い拳は潰れた握り飯のように壊れていく。 やがて血の架け橋を引きながら、男は壁から拳を引いた。 男は赤い舌で愛撫するように、己の拳に滲んだ血を舐め取ると、 「ボクは壊すことでしかイけないんだよ。オリジナルを壊すしかもう方法はないんだ」 ふいに巡らされた視線に、男たちの背筋が凍りつく。 瞳孔が、暗闇で光るネコの眼のように開いている。 「おまえら全員、ボクに壊されたいの?」  ――その眼で、何を見ているのか。
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