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男の言葉を聞いて、メンバーは互いに顔を見合わせた。
「でもなぁ……」
声にならない視線で言葉を交わし合う。
やがてひとりが、恐る恐るといった調子で口火を切った。
「あんた本当に、有坂龍一とは何の関係もないのか?」
メンバーの前に立つのは、裏の世界では有名な男の顔だ。
茶色い瞳に茶色い髪。
高級そうなスーツをスラリと身につけた優雅な佇まいの、その正体は政府の秘密工作員。
モデルのような整った顔立ちは、有坂龍一そのものの顔。
だが男は、
「何度も言わせないでよ。ボクはすでに有坂さんでもあり、でも君たちの質問に答えるなら有坂さんではない」
――ダン!
いきなり壁に拳を叩きつける。
「まどろっこしい話は苦手なんだよ。もうお前らじゃボクを満足させられない」
ダン、ダン、ダン!
何度も壁を殴りつける。
パンチ力が強すぎて、男の拳の方が砕けた。
だが男は壁を殴るのを止めず、その白い拳は潰れた握り飯のように壊れていく。
やがて血の架け橋を引きながら、男は壁から拳を引いた。
男は赤い舌で愛撫するように、己の拳に滲んだ血を舐め取ると、
「ボクは壊すことでしかイけないんだよ。オリジナルを壊すしかもう方法はないんだ」
ふいに巡らされた視線に、男たちの背筋が凍りつく。
瞳孔が、暗闇で光るネコの眼のように開いている。
「おまえら全員、ボクに壊されたいの?」
――その眼で、何を見ているのか。
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