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「……目的はなんだ」
喉元にナイフを突きつけられた男、その部屋の主のプロフェッサー、高梨洋一が目だけを動かして男に問うた。
プロフェッサーの通称は伊達ではない。
高梨の表の顔は、私立大学のグローバル学課の教授だ。
中東の民俗学に造詣が深く、そちらの宗教にも入信している。
ただ教授はその国が採っている君主制に異議を唱えており、テロ行為を繰り返すグループに資金援助しているという疑いが持たれている。
そのせいで日本政府からも目をつけられていた。
だから当然、突入してきたのも警察庁警備局だと考えたのだが、少なくとも政府は予告もなく人を殺したりしない。
先に逃げ込んできた男ふたりの胸には、男が投げたらしいナイフの柄が突き立っていた。
プロフェッサーの視線に気づいたのか、男はふふと笑う。
「いらないでしょう。そんな足でまとい」
確かに、指を落とされ耳を切られたぐらいでアジトの場所を吐くような輩は、このグループには必要ない。
これから一大事業が控えているのに、能なしの面倒など見ていられない。
そこでプロフェッサーは身動きすることなく、ただ、
「君の目的は?」
と尋ねる。
重ねて問われて、男はゆるゆるとナイフをプロフェッサーの喉からおろした。
そして、
「有坂龍一」
と答える。
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