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そして教授は、警察庁のセキュリティの奥、退職した警察官の中にその名を見つける。
『加賀見 蒼生』
一流大学を卒業しキャリアとして警察庁に入庁したにも関わらず、僅か4年で依願退職している。
キャリアの4年目といえば、どこかの警察署長を任されていてもおかしくない年だが、彼は何故か、警視庁下の警察署へ赴くことはなく、ずっと警察庁内部にいた。
それはおそらく、警察庁警備局警備企画課に所属していたからだ。
この課の中には、正式名称のない部署が存在している。
俗名で『ゼロ』などと呼ばれ、主な仕事は公安から依頼される情報収集。
在籍する人数も顔も明らかにされず、その任務は極秘裏に包まれている。
入庁したメンバーの中でも、特に優秀な人材が派遣される。
プロフェッサーが加賀見をそうだと確信する理由は、加賀見の不可解な死に方にあった。
加賀見は警察庁を依願退職した後、財界の大物の別荘で立てこもり人質事件を起こしている。
結果、射殺された。
加賀見は当時、人事不省の状態に陥り、説得にあたった警官の誤射により死亡したと世間には発表され、事件は現代社会を覆うストレスの問題にすり替えられた。
加賀見を撃った警官も厳重に処罰され、事件は終息したのだが、
でも退職しているとはいえ、元キャリアがひとり死んだ事件としては扱いが小さすぎる。
教授はこの国のエリート階級のしばりの厳しさを知っている。
実力だとか現場主義だとかは、すべてまやかし、キャリアが流す詭弁に過ぎない。
そんなキャリアが現職警察官の手で射殺された。
通常なら警視庁刑事部長の首がすげ替えられる処分が降りても不思議ではない次元の話だ。
しかし、そんな目立った人事異動は発令されなかった。
警察庁はまるで加賀見の存在を膨大な資料の中に埋めるようにして、この事件を闇に葬った。
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