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さて有坂龍一が、自分の妻の痴態を収めたデータの存在を残しておくわけは無いと思うが、
人の記憶や噂話は、そう簡単に消えるものではない。
そのデータが今後、『金』や『何か』に利用できると考える輩は、きっと存在するだろう。
そして血眼になって探し出そうとするのだ。
欲にまみれたこの社会は、そんなもの。
だから有坂龍一は、人間の記憶を塗り替えることにした。
有坂龍一の容姿は、その世界ではあまりにも有名だ。
茶色い髪に茶色い瞳をした超絶イケメン。
今夜は表立っての素性は伏せていたとはいえ、『有坂龍一』を知る者は、とっくにこの男の存在に気がついている。
何故この会場にいるのか、龍一の一挙一足にいちいち想像を働かせていたことだろう。
それがいきなり、あのカエルジャージ姿の少女のような顔をした女を、数多の著名人の前で、
「愛する妻です」
と紹介した。
驚いただろう。
慌てただろう。
そして思ったはずだ。
彼女がもしも本物なら、
『妖艶に乱れる姿など、ありえない』
と。
なんたってカエルジャージだ。
つまり、有坂龍一の妻の姿を目の当たりにした彼らの頭の中で、
『そのデータは偽物だったのだ』
と誘導される。
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