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楽園
「お前の一週間を、俺にくれないか」
存在していることすらこの世の奇跡と言われた、超絶美男子の有坂龍一に、
鳥もはばたくのを忘れて落ちてきそうなぐらいのイケメン顔でそんなことを言われた彼の妻、有坂美百合は、
「はぁ?」
身も蓋もなく唇の片端を斜めにひん曲げて、とんでもないブス顔で、そう答えた。
「何いってんの龍一。私たちはこの家で暮らして、仕事も自営で、24時間365日、ほとんど一緒にいるじゃない」
美百合が言うように、有坂家は家業で『美百合園』というイチゴ農園を営んでいる。
農作業に土日祝日はなく、イチゴを栽培しているハウスは家の裏にあって、出勤するといっても同じ敷地内。
大声で呼べば聞こえる距離。
龍一の真意がどこにあるかわからなくて、美百合はつい、嫌味ったらしく言ってしまった。
「まあ、龍一がオシゴトに行かなけりゃの話だけどね」
わざとではなかったが、運んで来た味噌汁の椀を、中身が跳ねるぐらい乱暴にテーブルの上に置く。
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