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だけど、美百合の心配は杞憂に終わり、龍一は岩壁の間に開いた穴に、器用に小型飛行機を滑り込ませると、海の上に着水した。
そのまま水の上を滑走し、しばらく岸壁のトンネルの中を走れば、ぽっかりと開けた場所に出る。
そこは小さな砂浜になっていて、奥にはモルディブやタヒチで見るような、自然素材で出来た可愛らしいヴィラが一軒。
葉ぶきの屋根に木製のサンデッキ。
正面に壁がないコテージの中は、柔らかで涼しげな水色の布がかけられていて、軽やかな風に揺れている。
膝丈とはいえ水の上に降りたので、龍一が美百合の尻をすくうように抱き上げて、浜辺まで連れていってくれた。
足が濡れない場所まで来てから、美百合を腕の中から下ろすと、
「俺は荷物を取ってくる。お前は先にヴィラに行っててくれ」
龍一はそう言って、再び水の中をザブザブと戻って行く。
美百合は龍一に言われた通り、振り返って建物の方に歩き出した。
気分がはしゃいでつい早足になれば、
「走ると転ぶぞ」
すかさず後ろから龍一の注意が飛んできて、その言葉が予言したように、美百合は砂に足をとられてペシャリと転んでしまう。
でも、柔らかい砂浜だから痛くはない。
すぐさま立ち上がり、龍一に大丈夫だと手を振って見せると、龍一は安心したように少し笑って息をついた。
相変わらず過剰なくらい過保護な人だ。
美百合はヴィラにあがれる階段を、手すりを掴みながら勢いよくのぼる。
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