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サンデッキには二台のデッキチェアが置いてあった。
ヴィラの中は広い1Kの作りで、手前のスペースにテーブル、右の壁際に小さなキッチンが据え付けられている。
目隠し布のぶら下がった部屋の奥には、大きくて清潔なダブルベッド。
まだ春先だった日本の気候とは違い、気温も温かく湿気もない、まさに南の島のリゾート地。
美百合は飛行機から荷物をおろしている龍一をまぶしそうに見ながら、
「龍一、ここは?」
尋ねると、龍一はふと優しい色に瞳を滲ませる。
「ん、隠れ家っぽくていいだろう。この島には俺と美百合しかいない。久しぶりにお前とふたりきりだ」
龍一が言うように、桃華が生まれてからは、朝から晩まで振り回されて、龍一とふたりで過ごせる時間なんて限られていた。
だからあの夜も……。
しかし今、この絶海の孤島には、龍一と美百合のふたりきり。
桃華の夜泣きもなければ、階下に住む父親がトイレに行く気配に耳をすませる必要もない。
本当に、誰もいないのだ。
いつも無理やり政府に連れていかれてしまう龍一を、ここでは美百合が独り占め。
ふたりっきり。
そう考えると、美百合は思わず耳まで赤くなった。
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