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その夜以降、ふたりの間には何もない。
龍一の性格を良く知る美百合は、少しは気になってはいたものの、
家業のイチゴ農園は露地物の収穫のピークで忙しいし、乳児が側に眠る環境では、あまりセックスのことなど考えている暇はない。
それにもうふたりは堂々と夫婦なわけだし、そう焦ってコトに及ばなくてもいいと、美百合は呑気にそう考えていた。
それが龍一が帰って三日目の朝を迎え、テーブルにお味噌汁を置いた今、
「美百合。お前の一週間を、俺にくれ」
ときた。
ちなみに一緒に暮らしている美百合の父親は、いま桃華と一緒に、日課の朝の散歩に出かけている。
最近の一番の楽しみらしいから止めやしないが、それでも父親が家にいれば、さすがの龍一も暴走は控えるから、今日みたいな日は早く帰ってきて欲しいと願う。
『もしかして龍一ってば、中途半端に終わったあの夜から、ずっとこんなことを考えていたのかしら』
そんな風に思うと、美百合はちょっと頭が痛くなり、足元が危うくなった。
世紀のイケメンで、この世にふたりといないと言われた有能な男が、こんなくだらないことに頭を脳ませていただなんて、本当にただの才能の無駄遣いではないか。
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