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しかし龍一は、ふっと頬を緩め、これ以上ないくらいの完璧な微笑みを浮かべて、
「違う、バカンスだ」
と言う。
「はぁ!?」
今度こそ美百合は遠慮なく、唇を歪めて尋ね返す。
「イチゴの収穫はピークで、桃華は夜泣きの時期なのに?」
美百合は判りきっていることを口にしているので、龍一も顔色ひとつ変えることはない。
泰然と余裕の表情で美百合を見つめている。
この顔は『Yes』。
「ついこの間も、10日間も家を留守にして、パパと私にさんざ心配かけたのに? しかも今度は私と龍一のふたりで?」
イヤミのつもりで聞いたのに、やっぱり龍一の表情は『Yes』。
「何バカなこと言ってるの。そんなこと出来るわけないじゃないの!」
美百合は叫んだが、何故かひょいっと肩に担がれて、まるで荷物のように外に運ばれた。
問答無用、傍若無人。
まさに聞く耳を持たない態度とはこのこと。
「ちょっと龍一。どこ行くの。どこに連れていくのよー!」
美百合の必死の怒鳴り声は、誰にも届かなかった。
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