36人が本棚に入れています
本棚に追加
「どーこーへー、連れてくのー!」
美百合の怒声のような大声は、自家用プロペラ機の中でも続いていた。
狭い座席は4人分あるが、今は美百合と龍一しか乗っている者はなく、後ろのふたつには荷物が積んである。
ちなみに操縦しているのは龍一で、今日の今まで美百合は、龍一が飛行機の運転(?)が出来ることを知らなかった。
飛行機に美百合を乗せ固くシートベルトを締めると、あっという間に飛行機は離陸態勢に入り、さすがの美百合もどうすることも出来ない。
今まで何も教えてくれようとはしなかった龍一だが、ギャンギャン騒ぐ美百合に、ここへ来てやっと口を開いた。
「慌てるな。もうすぐ着く」
言葉と同時にグインと高度を落とされて、美百合はジェットコースターよろしく、締めているシートベルトを両手できつく握り締める。
飛行機のコクピットから眺める視界良好の大パノラマは、逆に落下の恐怖を増やしただけだ。
そして龍一が飛行機の頭を向けている先には、飛行場の滑走路なんて無くて、景色は360度、大海原。
そのなかにポツンと落とした墨汁のように小さな島があり、どうやらそこへ向かっているようだが――。
「龍一ちょっと、岩がある岩っ!」
美百合が言うように、島は緑の木々で覆われているが砂浜なんてものはなく、高い岸壁に囲まれている。
そそり立つ岸の壁を、これまた激しい高波が、ザザンザザンとものすごい勢いで打ち付けていて、
降りている飛行機の頭が、どう見てもその岩壁に突撃していくように見えて、美百合は思わず固く目を閉じた。
最初のコメントを投稿しよう!