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麻里の表情は、どこか悲しげだった。
『先に行くな』
そう言ってから、僕の服の袖を掴み後ろに引っ張った。
『ごめん。久し振りに女の子の家にあがったから少し緊張したんだ』
僕達は、そのまま歩きながら目的地に向かった。その途中、僕の言葉を聞いていた麻里は、微笑んでいた表情を一変させた。
掴んでいた袖を離して僕に向き直って言った。
『女の子って?』
『いや、茂木のことだから』
『ああ、そっか。女友達いないもんね』
自分は、女じゃないとでも言いたいんだろうか。疑問に思ったが口には、ださなかった。
『失礼な奴だな。これでも、高校ではもてる方なんだ』
『女たらし』
失礼な言葉を口走る。最初は、気にしなかったが、二度目となると僕の心が折れてしまう。
『ごめん。見栄を張ったよ』
僕が素直に認めると彼女は、肯定の意味を込めて首を振った。
それからしばらくした頃だった。目的地である喫茶店の看板が見えてきた。
お互いが通う高校の事や、中学校の思い出を喫茶店で話し合うのが、今日の予定だった。
喫茶店に入って席に着いてからあたりを見渡した。初めて入った店というのも理由の一つだったが、話すことが無くなってしまったのが一番の問題だった。そのことを考えると自分の引き出しの無さを悔やむしかなかった。
向かい側に座った彼女は、気付いているのかいないのか。それは、分からなかったが挙動不審な僕を面白がっているのは、確かだった。
麻里は、机に頬杖を付いて優しく微笑みながら僕を観察している。先に家を出た罰だとでも言いたいのだろうか。追い討ちをかけるように麻里が言った。
『ボキャ貧』
何も喋らないで辺りを見渡していた事が、ボキャブラリーの乏しさに拍車がかかたことは、紛れもない事実だった。
そんなにはっきり言わなくてもわかっている。その気持ちが僕にはあった。
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