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『僕は、ボキャ貧じゃない。あえて喋らないんだ』
また、余計な見栄を張ってしまった。外にいるんじゃないかと錯覚を起こすほどに自分の顔が暑くなってくるのを感じた。
『ふーん』
僕とは、対照的に彼女の顔は、涼しげだった。自信に満ちあふれたその表情に僕は、少し見とれてしまった。
喫茶店の従業員が僕達の間に入り注文していた飲み物が僕と彼女の目の前に置かれた。長細いコップに注がれたオレンジジュースを一気に飲み干すと僕は、言った。
『認める。認めるから何か小話を一つ、お願いしたい』
もう、僕の心は折れていた。彼女に何か話してもらおうと思い、言ってみたが、『私は、落語家じゃない』と言って呆れた表情をしながら微笑を浮かべていた。
先ほど注文したハーブティーを口につけてから続けた。
『怖い話でも良いなら話すけど、いい?』
『いいよ』
即答だった。麻里は、笑いながら『早っ』と言ってから、明るい笑みを浮かべ、語り始めた。
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