遠くから眺めているだけなんて、誰にでも出来る。

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魚が、好きだった。 幼い頃から、家族の団欒と共に水槽があり、鮮やかな色をした小さな魚達が悠々とそのヒレを波打たせ、僕を魅了した。 水が、好きだった。 水のない地上でいくら魚の動きを真似ても、それはなんの意味もない。薄布が風に舞い、はらりと固い地面に落ちる様はなんとも惨めで。 水中で踊る人魚を、見た。 空中であれほどむなしくたなびいていた薄布が、まるで生きているかのように、まるで僕が見てきた魚達のヒレのようにゆらりと、ふわふわと漂うのだ。 僕は、人魚の為に水槽を買った。 巨大な水槽を入れるために家を買い、毎日その水槽の前でうっとりして暮らした。 水槽に、魚を入れた。 小さな金魚が十匹程、あまりに広い空間に戸惑うように身を寄せあう姿に、僕はひとり微笑んだ。 金魚だけでは広すぎたので、他の魚も入れた。 なるべくヒレが大きいものを選び、僕は毎日魚達の優雅な舞を楽しんだ。
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