遠くから眺めているだけなんて、誰にでも出来る。

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また、人魚を手に入れた。 水槽は綺麗に掃除し、水を入れ換え、透き通った状態にした。今度は魚は入れない。人魚が食べられてしまっては、困る。 水槽に、少しだけ仕掛けをした。 さあ、僕の人魚。舞台は整った。僕のために舞っておくれ。地上ではできない、唯一無二の舞を目の前で披露しておくれ。 人魚は、舞った。 とても素敵な舞いだ。そして人魚自身、とても魅力的だった。赤い薄布がとても似合う。金魚の生まれ変わりだろうか。水を愛しているからこそできる、素晴らしい舞いだ。 人魚は水を、愛していた。 僕も水を愛している。だから、水槽の蓋を閉めた。この仕掛けは手作りだ。 人魚は、水面へ浮かび上がると驚いた表情を見せた。水面がない。空気がない。 さらに、仕掛けはもうひとつ。 この水槽、ただのガラスではない。全ての面がブラックミラーなのだ。だから人魚のいる水槽の中からは、僕の姿は見えない。僕からは全てお見通しなのに。 人魚は肺の中、体の中から全ての空気を吐き出し、死んだ。ゆっくりと、ゆっくりと底に降りてくる天使。僕の天使。
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