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夏に入りかけだった。三年生の俺には、これからかったるいことをしなければならない時期だった。目下のところは就職活動というやつだ。しがない田舎町の不良には、農家で土をいじるか、町工場で車をいじるくらいしか道がない。ろくに勉強もせず、時代遅れな原チャを走らせていた結果だから、しかたがないとも思っている。別にそれに不満を覚えていたわけじゃなかった。
俺の親父もそうだった。先輩だってそうしてきた。仲間達もそうするつもりらしい。俺だってそうなるはずだった。むしろ、汗にまみれて工場でマシンをいじる生活なんて、夢みたいだとすら思っていた。
それがどうだよ。俺。汗だくで、学ランじっとり濡らして。普段ろくに使いもしねえ駅に行って。見ろよ。いいや、見られてんだよ。セーラー服の、俺とは縁もゆかりもなさそうな女子に。
「なあ……俺も」
俺の言葉に、女子は固まったままだった。
「俺も……行って、いい……か?」
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