第1章

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「何で睨むんや?」 見慣れた風景の夢の中、池の反対側の少女に話しかけた途端、池がぐぐぐって縮まって、少女が目の前に立っていた。 少女はオレを見上げると、きょとん、とした表情になった。今日は、怒っていない? 「何でお庭で会えんかったん?」  うわっ、口を開いた…見た目通り、高くて澄んだかあいらしい声を出す。阿部がいたら、大喜びしそうな、舌足らずな話し方だ。 「に…庭で会えなかったのは、オレが守り袋を持っとったからだ…あそこでお前に会う夢を見ると、いつも頭ぁ痛くなってかなわんからな」 「…そうなん?今は?頭、いとおない?」オレが頷くと、少女はぱあっと明るく笑った。「そうか、よかった!榎から落とした時、死んじまったと思っとったよ」  清らかな笑顔で、さらっと言われた。 「…やっぱり、お前がナンかしたんか…何で?オレが何したっつうんや?」  怒った声を出さないように気をつけて、なるべくさり気なく尋ねた。 「あんたは何もしとらんよ?ただ、あんたの持っとったキラキラしたもん、分けてもらおう思っただけや」  へっ?  少女はそう言うと、自分の足元をじっと見つめて黙り込んだ。見る間に、その姿が薄くなり、消えた。 「おいっ!まだ話は終わってないぞ!なんで睨むんだよ!な…何?そのキラキラもらえなかったから、オレに嫌がらせすんのか?」  オレは慌てて左右を見回しながら叫んだ。遥か頭上から声が降ってくる。 「ちょうだいなぁ…今はあんたも持っとらんキラキラしたもん、捜して、うちにちょうだいなぁ」  見上げた頭上には、ピンク色のねむの花が満開で、栗の花に似た匂いがした。
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