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「何で睨むんや?」
見慣れた風景の夢の中、池の反対側の少女に話しかけた途端、池がぐぐぐって縮まって、少女が目の前に立っていた。
少女はオレを見上げると、きょとん、とした表情になった。今日は、怒っていない?
「何でお庭で会えんかったん?」
うわっ、口を開いた…見た目通り、高くて澄んだかあいらしい声を出す。阿部がいたら、大喜びしそうな、舌足らずな話し方だ。
「に…庭で会えなかったのは、オレが守り袋を持っとったからだ…あそこでお前に会う夢を見ると、いつも頭ぁ痛くなってかなわんからな」
「…そうなん?今は?頭、いとおない?」オレが頷くと、少女はぱあっと明るく笑った。「そうか、よかった!榎から落とした時、死んじまったと思っとったよ」
清らかな笑顔で、さらっと言われた。
「…やっぱり、お前がナンかしたんか…何で?オレが何したっつうんや?」
怒った声を出さないように気をつけて、なるべくさり気なく尋ねた。
「あんたは何もしとらんよ?ただ、あんたの持っとったキラキラしたもん、分けてもらおう思っただけや」
へっ?
少女はそう言うと、自分の足元をじっと見つめて黙り込んだ。見る間に、その姿が薄くなり、消えた。
「おいっ!まだ話は終わってないぞ!なんで睨むんだよ!な…何?そのキラキラもらえなかったから、オレに嫌がらせすんのか?」
オレは慌てて左右を見回しながら叫んだ。遥か頭上から声が降ってくる。
「ちょうだいなぁ…今はあんたも持っとらんキラキラしたもん、捜して、うちにちょうだいなぁ」
見上げた頭上には、ピンク色のねむの花が満開で、栗の花に似た匂いがした。
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