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「キラキラしたもん…」
翌晩、お馴染みの薫ちゃんの病院のロビーで、三人でまじないみたいに同じ言葉を繰り返した。
薄暗いロビーには自販機だけが煌々と明るく、そこはかとなく気持ちを滅入らせる。
「んでな、躑躅の咲き具合が気になる言うて、守屋さんの庭に入らせてもろたんだ…昼飯時に、親父に内緒でな。榎に登ったけど、何もなかった…うん?何、驚いた顔しとるん?」
「だって!マサ、よく登ったわね、怖くなかったん?」
隣に座った薫ちゃんが両手でオレに縋りついたケド、もちろんオレはその肩を抱かない…いや、抱けない!
「いやいやいや、無鉄砲ですね、また突き落とされたらどうするんですか」
今日は、大きなチェックのブレザーを羽織って、丸眼鏡をかけた阿部が、いかにも呆れた風に頭を左右に振った。
悪かったな!オレはお前らみたいに大学に行く頭が無い単細胞なんだよ。
「えーっ、だって、ちょうだいって言うんやから、捜しているオレを落としたりしないやろ?んでな、ついでに、守屋さんにねむの木のこと、色々聞いたんや…」
オレの前振りに、薫ちゃんも阿部も興味深々で一歩前にオレに近づいた。あのさ、薫ちゃんが側に来てふわっていい匂いがするのは大歓迎なんだけど、阿部の押し寄せてくるオヤジ臭は、ホント、カンベンして欲しい。
「えーっと、池のほとりの、オレが落ちた榎の大木があった場所には、昔はねむの木が植わっとったんだと。ずい分昔のコトらしいけど…」
「平安…いや、もしかしたら、天平時代までさかのぼるかもしれませんね」
オレの言葉を遮って、阿部が深刻な声を出した。
こいつってさ、結構いい声しとるな。
「えぇっ?何で阿部ちゃん、そないなコト、わかるん?」
薫ちゃんが感心した声を出す。
「だって、マサさんの夢に出てくる少女の格好は、そのくらい昔の話ですよ?ほら、聖徳太子が似たようなヘアースタイルしているじゃないですか?ああっ!」いきなりの大声に、オレと薫ちゃんはびくっとしたけれど、阿部は頓着せずに話し続ける。「そうか、守屋…聖徳太子と敵対していた、呪術を司る一族じゃないですか…」
一人で納得してそうか、そうかと頷く阿部を横目で見ながら、オレは話の続きを報告する。
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