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「えっと、な、大昔にねむの木が二本、白とピンクの花を咲かせるのが植えてあったんだけど、役目を終えて白が枯れたから、ピンクの木も取り払ったって…いや、今の守屋さんがそうしたんじゃなくって、そういう書付が、残っとるんだって、言っとったよ」
阿部がうんうん、と一人で納得顔で頷いているのを、オレと薫ちゃんがじっと見つめ、何も説明がないので、薫ちゃんが阿部をつんつんと突いた。阿部が何を勘違いしたのか、「ぐふっ」と嬉しそうな声を出す。
「ああ、失礼…ちょっと、調べときます、だいだい想像ついちゃいましたけどね」阿部は大阪商人の様に両手のひらを擦り合わせると、とんとんと話を進めていく。「取りあえず、彼女の欲しがっている、キラキラしたものを捜しましょう」
座っていた椅子の車輪をカラカラと動かして、バックして阿部はオレから離れた。
「キラキラしたもの…」阿部がブレザーと同柄の半ズボンをはいた太ももを両手でこすりながら目を瞑って呟く。「植木屋が持っている良く砥がれた鋏、鎌、玉砂利、いや、物とは限らないか…その時の木漏れ日、飛ぶ鳥の翼のきらめき?」
「いやあ、阿部ちゃん、良くそんな詩的な事思いつくわねぇ、さすが文学部」
薫ちゃんが、心底感心した声を出した。ちょっとイラっとした。オレに話す時は、何処かに軽蔑感が混ざっているのに、なんや、その尊敬のだし汁は?
「えー、薫せんぱいに褒められると嬉しいなあ…マサさん、ねむの花は満開だったんですね?」オレがむすっとして頷くと、それに頓着もせず阿部は立ち上がった。「枯れるまではまだ時間がありますね。僕、心当たりを捜してみます」
「おおきにな、阿部ちゃん…ほんま、このあほのためにな、頼りにしとるわぁ」
今回はボランティアだと言い切った阿部に、薫ちゃんが心からの感謝を伝える。あのさぁっ!昨夜の電話じゃあ、苦手な後輩だって言っていたよね?薫ちゃんっ!何なの、その似合わない媚びはぁ!
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