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「…なんでや?なんで、そないにきっぱり言えるんや?」
阿部は一瞬しまった!と言う顔をして、天井を見つめた。
「あっ」
「なんや、天井に霊でも浮いとるんか」
「はい」
止めろよ、お前が言うとリアル過ぎる。
「あははは、冗談ですよ」
「!阿部、お前髪切ったら性格まで変わったな?」椅子についたローターで一気にパソコンをいじっていた阿部の顔まで接近して凄んだ。「言えよ、お前、何知っとるんやぁ~」
オレの啖呵にびびって、阿部はすぐに白状した。
「マサぁっ!何ちんたらやっとるんや、さっさとその肥料をやらんかい!」
守屋さんの庭の西の塀沿いで、オヤジからケツを蹴られた。
急に、しかも、思いっきり…一瞬首ががくってなって、「おい、クソオヤジ、頭殴らなくても、そんなにふいに蹴ったら、むち打ちになるだろーがっ!」と言うオレの抗議は、ケって顔で放り投げられた。
「おめえが気ぃ抜けた顔でいつまでも突っ立っとるからだろーが!」
ぐうの音も出ません。
そう、昨夜の阿部の話が、寝ても起きても頭ん中グルグル回って、オレは仕事に身が入っていない。
だめだ、だめだ、感情的になっていると、あん時みたいに榎の天辺から落ちる…いや、これはねむの木だし、オレ、地上にいるし…あれ?
自分の居場所を再確認するために地面に視線を落としたオレは、ねむの木の根を見て違和感を感じた。
「おやじ、このねむ、植え替えてんのか?木の大きさの割に、根の張り具合が弱いよな?」
「おうっ、よぉわかったな」肥料袋を抱えてオレの側に置きながら、オヤジはうーん、て腰を伸ばしてねむの木を見上げる。「そやな、お前が高校逃げ出した頃やから、もう五~六年になるかな、だめなんだよな、どうしても、此処にねむの木は合わんや」
「へーえ?だって、ねむの木って、丈夫なんやろ?」
頭に巻いた手ぬぐいを取って首筋の汗を拭きながら、オヤジは首を傾げる。
「まあ、相性かな?守屋さんトコの土と、ねむの木はどうも合わんのや、大昔はほれ、庭の正面の池のほとりに大きいのが植わっとったんやけど、それも枯れちまったらしいしなぁ…まあ、自然の理には逆らえんしな」
ドキッとした。
ねむの木の話もだけど、オヤジのらしからぬ最後の言葉、自然の理って奴に。
阿部も、昨夜言っとった…。
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