第1章

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 守屋邸の裏の車寄せにトラックを止め、親父と一緒に猫車に道具を入れた。  庭に入る前に、軽く深呼吸。  親父には、詳しい話は何もしていないけれど、夏に守屋邸限定で気分が悪くなるオレを、かなり心配してくれている。  庭仕事には厳しくて、鋏さばきが悪いとケツをたたき、箒さばきが悪いと足をキックして来る親父が、けっしてオレの頭は叩かない。  三年目の五月、でも今年のオレは、今までと違う…強力な護符を持たされている。  もう一度、大きく息を吐き出すと、無言で軍手を履き、道具を載せた猫車を押し出した。  三年目の四月、公園の桜並木で花の後始末(肥料やりや、花見客に踏み固められた土をほぐす作業だ)をしているオレを、いきなり薫ちゃんが尋ねて来た。 「いややったけど、東京の知り合いに頼んで護符を授けてもろた。今度、守屋さんの庭に入る時は持ってき」  おととしと同じく、解放の秋を迎えた途端に性欲の塊となり、欲望の赴くままに突っ走ったオレを諭して、呆れて、最後はひっぱたいて見放した薫ちゃんの優しい言葉に、オレは口があんぐりと開いたままになった。そんなオレの顔を見て、少しだけ笑った。 「幼稚園児みたいや、マサは。その驚いた顔も、欲望を止められない所も…去年の夏の縋るような顔も、な」  幼稚園の時から、オレはこの年上の従姉にぞっこんだった。昔は、あほなオレを心配してあれこれ面倒を見てくれていた薫ちゃんも、東京の医大に進んでからは離れて、もうすっかり別々の世界の住人だった。だって、ねえ、高校をドロップアウトして専門学校に逃げ込んで、庭師見習いに落ち着いたオレと、東京で医者になって病院の跡取り息子と結婚した薫ちゃんとでは、世界が違い過ぎるでしょう…三年前に、離婚して大阪に戻って来るまでは。  戻って来ても、お互いもうガキじゃないし、そんなに交流はなかった…オレが頭打って薫ちゃんの病院に担ぎ込まれるまでは。  だから、オレの落下事件は、オレには不能という不幸と、憧れの人との再接触という幸福を一気に運んできてくれたんだ。  ああっ!むっちゃ嬉しい!!薫ちゃんはオレを見捨てず、わざわざお守りをくれた…でも、何だ?これ。
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