眼鏡を通せば見えないし、本の世界は誰にも侵略されないの

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天気がいい。 抜けるような青空というのは、こういうものかな。 両親と旅行に来て、ちょっとひとりで散歩したくなって歩いてきたけど、少し肌に冷たい風や、草木の香りがとても安らげる。 そう離れていない所に、小さな小屋を見つけた。中には先客がいるようだけど、入ってみる。個人の建物じゃないよね、と辺りを見回しながら。 木漏れ日を黒髪に写した彼女は、顔を俯けて本に夢中のようだ。こんにちはと声をかけても返事はない。 向かい側の長椅子に腰掛けると、脚がギッと音を立てた。 B「あの、どうしてここで本を読んでるんですか?」 なんとなく気まずくて、また声をかけた。彼女は眼鏡のレンズを無機質に光らせて、私を見た。 A「ここなら安全だからよ」 何故か背筋がヒヤリと凍った。同時に、何かが弾けるような、何かを叩くような音が小屋の中に響き渡る。 彼女の眼鏡のレンズ以外のガラスが、真っ赤な手形で汚れた。
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