第1章

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 今年の梅雨は雨が少なかった。 それを取り戻すかのように、8月の今大雨が続いている。2日間降り続けた雨は、天気予報によるともう数日続くという。  せっかくの夏休みだというのにこの雨で海やプールに行けなくなり退屈な思いをしている子供が多い中、1人の男の子が楽しそうにはしゃいでいた。黄色いカッパに黄色い長靴を身につけて、雨の中を跳びはねている。  その男の子、良太はこの雨具セットがお気に入りで、特に長靴を大事にしていた。今年小学校に入る前に、ランドセルと一緒におばあちゃんに買ってもらったのだ。おばあちゃん子の良太は大いに喜び雨の日を待ったが、梅雨の時期にもほとんど活躍の機会がなかった。そこにこの大雨だ。良太は昨日と今日、朝の宿題を済ませたらすぐに遊びに出ている。  高台にある家から一般道に続く唯一の道。ここが良太のお気に入りの遊び場だった。この道はまだ舗装されておらず、むき出しになった土のでこぼこにより、水たまりがたくさんできている。この水たまりに飛び込むのが良太は大好きだった。  昨日は水たまりの数が少なく、足でぱちゃぱちゃしているだけだった。しかし今日は違う。あちらこちらに大小の水たまりができているのだ。良太は水たまりの中しか歩けないという自分ルールを設定していた。  近い水たまりは1歩1歩足を動かして渡り、遠い水たまりにはジャンプして渡る。ジャンプして水たまりに落ちた時に飛び散る水しぶきと音が心地よかった。ゴール地点は家から遠めの場所にある大きな水たまりだ。その水たまりは幅が1メートル以上はあった。あの水たまりに飛び込む時の爽快感を想像しながら良太は接近して行った。  良太はようやく大きな水たまりの手前まできた。あと1回ジャンプすれば到達する。目標地点は水たまりの中心だ。良太は今日一番の力を込めて、水たまりの中心に落ちるべく高くジャンプした。  バシャッ!グニュッ!  え?良太は足元に違和感を感じた。水たまりとはいえ、中に入ってしまえば足に来るのは土の感触のはずだ。それが、なんとも気持ちの悪いぶよぶよしたものに乗っている感じ。しかも、この水たまりはやけに深い。今までの水たまりはせいぜい深さ数センチで、黄色い長靴のつま先までしっかりと水の上に出ていた。しかし今はどうだろう。長靴がほとんど水の中に浸かっているのだ。あと少しでも深ければ長靴の中に水が入ってきてしまう。
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