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鏡越しに見える、浴室の扉。磨りガラスの向こうに人がいた――。
べったりと張り付くようにこちらを見ている。女の顔。
声が出なかった。
そして、浴室の扉をドンドンドンドンドンと叩く無数の手が女の周りに映った。
「っ……!」
腰が抜けそうになる。
慌てて洗面所のドアノブを回そうとするが手が震え、思うように力が入らなかった。
「やっ……! っ……」
これまでにない恐怖に泣きそうになり、血の気が下がるのを感じた。
その時、バンッと一際大きな音がした。
振り替えることは出来なかった。
無我夢中でドアノブを回し、やっと開けることに成功した春佳は這いずるように廊下に出た。そして、ドアを勢いよく閉める。
――閉まるドア隙間から、僅かに見えた浴室の磨りガラスには無数の顔が張り付くように映し出されていた。
終
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