第1章

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「今日の練習はここまで、皆お疲れ」 「有難うございましたー」  夏の間だけコーチとして女子ボート部を指導している成瀬の声が響いた。  挨拶が終わると部員が輪になってストレッチを始める。真央の相方は伊井美里(いい みさと)だ 「ねぇ真央さ、この間来ていた大学生とあれから会った?」  答えを聞きたくてうずうずするのか真央の背中を押す美里の力は随分弱い。 「この間ってもまだ三日位しかたってないよ。そんなことよりちゃんと背中押して」 「わかったわかった・・・・じゃあ会ってはいないんだ。代わりにメール?」 「うううん、アドレスとか聞かれなかったし」 「えええっ・・・・何で、どうしてぇっ?」  美里の声が大きくなるにつれて周囲の視線が真央たちに集まっている。 「美里、ちょっと声大きい」 「いいじゃん、皆真央の恋の行方に注目してるんだよ。格好良かったよねあの人。背は高いしさ」 「そうだね」  左足首を右手で?み呼吸する合間に美里の言葉に頷く。 「んもーっ、素っ気無さすぎ。真央は彼のこと何とも思ってないわけ?」 「そんな事無いけど・・・」 「失くした自転車の鍵を届けに来てくれたついでに付き合ってくれ、なんだよ。いいじゃん、王道じゃん」  興奮した美里がバシバシと背中を叩いてくるので息をするのに苦しくなった真央はその場に立ち上がった。 「もういい。そんなにつよく叩かれたらクールダウンにならないし」  自分のリュックを?んだ真央は、まだストレッチの最中の部員達にお疲れ様でしたと声をかけて自転車置き場に向かった。 「何よ皆して人の事面白がって・・」  真央だって告白された時はてっきり次の日も上村は練習で潟に来ると思っていてた。  次に会ったら鍵を拾ってくれたお礼をちゃんと言おうと、練習の合間にどう言おうか思い悩んだいたのだがその日は上村の通う大学のボートが保管されてある艇庫のシャッターが上がる事は無く、真央は肩透かしを食らったような気持ちになった。  次の日もそのまた次の日も潟で上村の姿を見ることは無かった。  大学まで行けば会えるかもと思ったが、真央は今ボートの県大会に向けて練習を休むわけにはいかなかった。  ひょっとしてからかわれたのだろうかと思ってみたりもした。 「あー面倒くさい」
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