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元和(もとかず)が目を覚めた時には一面真っ暗だった。
「しまった! 少し横になった間にこんなに暗くなっている……!」
元和は朝から海釣りに来ていた。
小さなボートで海岸から少し離れた沖で釣り糸を垂らしていたが、一向に何の反応もなかったのでそのまま眠ってしまったらしい。
真っ暗になる前に帰る予定だった元和は、急いでボートを漕いで海岸であろう方角へと向かった。
その途中、ぬっと青白い手が海面から突き出しボートを掴んだ。真っ暗なのになぜかはっきりとその手は見える。
「え……?」
元和は固まり目を疑った。
そのまま凝視していると、ボートの周りに手が一つ、二つ……と、だんだんと増えていく。
そして気付けば何十人もの手がボートの周りを掴んでいた。それはまるで今にも海から這い上がってくるかのように――。
「うわぁぁ! な、なんなんだ!?」
元和は錯乱し、発狂しながらその手を足で海へと蹴り飛ばす。しかし再び戻ってくる青白い手。
何度も何度も蹴り飛ばすが、何度も何度も手がボートを掴む。
「はぁ、はぁ……」
ついに元和は息が切れ座り込んでしまう。
それを見計らっていたかのように、青白い手だけではなく、隠れていたであろう頭や足をゆっくりとこちらに覗かせてきた。
「う、うわぁぁ! 来るな! やめろー!」
いくら騒いでも容赦なくボートに這い上がってくる、何十人もの青白い者達。
そして元和は見てしまった。
顔、足、胴体、どれもパンパンに膨れ上がり人間の形を成していない『それ』を。
その者達は叫び暴れる元和を物ともせず、足や腕にまとわりついてきた。
そして勢い良く引きずり下ろす。
ドボンッ! ドボドボドボ……!
静けさの中、海面には誰もいないボートがただ揺れ続けていた。
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