一.四門出遊

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 百迦は、居室で、静かに座していた。  石造りの壁に開けられた大きな側窓からは、夏の暑気と僅かな風が入り込んで、百迦の瞑想を涼ませる。  石の敷設してある床には、綿で作った布が敷いてあり、その上に更に、丸い形に織り上げた模様のついた布を敷いて、百迦は座していた。  朝の日は既に斜めに昇り、燃える日輪の放つ陽光が、室内にほの暗い影を宿していた。 ――生きるということは、全く以って、虚しいものだ。辛くて虚しいのが、生というものかは。  百迦は、座しているとき、最も心が静まった。  百迦には、家族が居た。 老齢の父親は蒸飯王といい、古皿国の属国の華平国に、百迦の就任前は、良政を敷いていた。   父王の后は真葉端といい、後妻にして百迦の継母であった。  百迦の実母は、真綾といい、百迦を産むときに大変な難産で、なんとか産み落としたは良いものの、そのあと、体調が戻らず、一週間ほどで息絶えてしまった。  あまりにも幼少の頃のことゆえ、百迦の記憶にはしかとは残っていない不幸であるが、その悲しみと寂しさは、百迦の精神の基礎に、深淵の暗闇を設えてしまった。  だから、百迦は、生来こころが楽しめず、陰鬱な性格の人間であった。  また、真葉端と父王の間に出来た第二子は、十迦といい、真葉端に溺愛され、わがままに育った。十迦は百迦と三つ違いの弟であったが、百迦と事あるごとに比較され、百迦の寂しさを蓄積させた。  二人とも、華平国の王族の子供として、師範に教育されていたが、基本的に、百迦は学問が良く出来た。十迦は、あまり学問が出来なかった。そういう百迦を、真葉端は実の子ではないことも手伝って妬み嫌い、十迦の方ばかりを可愛がって十迦の未来を父王に保障させようと必死だった。
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