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十迦は、年齢もあって、百迦よりも足が遅かったが、待つ愛情も保てずに、私は山を下った。しかし、帰り道、十迦には、会わなかった。途中で引きかえして、城に帰っているのかとも思ったが、入り口には馬が繋がれたままだった。そのうち帰ってくるだろうと、入り口で待っていたが、夏の長い日も暮れて薄暗くなってきても、十迦は帰ってこなかった。
日が暮れてしまう前に、百迦は城に帰り、このことを蒸飯王に話した。父王は、百迦に事情を詳しく訊くと、すぐに兵士を集めて、十迦を探索させた。森から山に掛けて、兵士たちは、松明の明かりを頼りに、夜通し探しぬいた。
十迦が、死体となって、発見されたのは、次の日の朝、明るみだした頃だった。そま道の中腹が切り立った尾根になっているところの、谷のほうへ下った大石の上に、頭を血に染めて、死体は転がっていた。兵士が、谷に下っていって見つけた。
死体は、谷から担ぎ上げられ、朝のうちに、城の中の王と王妃の前に運び込まれた。両親は、絶句し悲しんだが、特に真葉端の悲しみ方は、尋常ならなかった。自分の心臓が、抉り出されたかのような、泣号を上げて十迦の胸に泣き伏した。
百迦は、あまり悲しめなかった。そして、自分の非情さを知ると共に、生のあっけなさ、死のありふれを感じた。もとより、こころの楽しめないのが常の百迦は、自分の非情さからくる罪悪感に助長されて、十迦を殺したのが自分なのではないかと、自分を責め悩んだ。
真葉端は、十迦の死ののち、憑きものが落ちたように元気が無くなり、それに伴い、百迦へのいびりも少なくなった。蒸飯王は真葉端を慰めてはいたが、真葉端の心の傷はなかなか癒えず、彼女にあまり愛を感じたことのない百迦すら、彼女が痛々しかった。
十迦を死に追いやったのは、自分ではないか? 真葉端に苛められて十迦を疎ましく思い、弟が死ねばいいと思うことが皆無ではなかったのではないか? 心のどこかで彼を殺したいと思っていたのではないか? だから、十迦が死んでも、あまり悲しくなかったのではないか?
真葉端は、不思議と百迦を責めなかった。その罪すら問わない失望した姿が、かえって百迦を責め抜いた。真葉端は、数ヶ月すると微笑みを湛えるようになったが、以前のように、蒸飯王に自分の意見を主張したり、百迦に叱責することが無くなった。人格が変ったように大人しくなってしまった。
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