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彼女は、僕を待っていてくれるようになってね。
僕が『太平洋のいきものたち』コーナーに現れると、ガラスの手前で手を振ってくれるんだ。
僕も手を振り返して、それからクロッキー帳を広げるのさ。
鉛筆を握って、巨大水槽を眺める。
今日は何を書こうなんて、考える必要はない。
彼女の一挙手一投足が、至極のモチーフだった。
彼女はいろんな姿を見せてくれたから、描き厭きることはなかった。
水中カメラを持ちゴーグルをかけタンクを背負ったフル装備のダイバー姿のときもあれば、ウエットスーツだけを着て金色の髪をなびかせて泳ぐ姿のときもある。
そして、一糸まとわぬ姿で水の流れに身を任せていることもある。
そんなときは、ちょっと目のやり場に困るけど。
でも、すべてを脱ぎ去ったその姿が、一番「人魚」に近いような気がする。
つまり、とびきり美しいってこと。
どうだい、行雄も彼女に会ってみたくなったろう?
でも君には、僕と同じ力はないんだよね。
残念だ。
よかったら、僕のクロッキー帳を見るといい。
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