60cm

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ならば、僕にできることはひとつだ。 急かされるようにバッグからクロッキー帳を取り出す。 グラファイト鉛筆で、彼女の姿をスケッチする。 僕の手は、迷わず動いた。 細く、太く、繊細で力強い線で、水流になびく金色の髪を描く。 高く鋭角に張り出した鼻梁はあえて線で描かず、頬と小鼻の陰影で際立たせる。 大きく開いた目は、瞼とまつ毛の生え具合で、曲面を表現した。 残念ながら閉館時間までに、彼女を描き切ることはできなかった。 その日は、館内を流れる別れのワルツに背中を押されて、後ろ髪をひかれる思いで水族館をあとにしたんだ。 君が想像するとおり、もちろん、翌日も水族館へ足を運んださ。 そして、スケッチをつづけた。 今度は、水槽の端をターンする姿を描いた。 太ももからふくらはぎ、足先に装着したフィンが力強く水を蹴る躍動感は、描きながら高揚を覚えたよ。 そして次の日も、水族館を訪れた。 知ってたかい? マリンパーク日本海には年間パスポートがあって、たった三千七百円で何度でも入館できるんだ。 すごく、お得だろ?
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