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僕は暑すぎる日差しから逃げてバスの待ち合いへ行く。彼女は腰を掛けて本を読んでいた。
分厚い本。いつの間に読み始めたんだろう。
僕の視線に気づいた彼女が笑いかけた。
「これね。『源氏物語』だよ。古文で興味もったの」
そうなんだ。彼女の側で覗いてみたけれど僕は一行も読めず、あくびをした。彼女はクスリと笑う。
「面白いよ。とっても昔のね、恋物語」
へえ。
「源氏の君って、たくさんの妻を持つんだよ」
今じゃ、浮気になってしまうね。
「苦手っていってた歴史にも興味が出たの。今は数学だけかなぁ」
数字も、平仮名も読めない僕はただただ話を聞くだけなんだ。彼女はそれだけで満足する。
やがてバスのエンジンオンが近づき、彼女は慌てて本をしまう。僕の頭を撫でて、太陽の笑みを浮かべた。
「また明日ね」
「にゃあ」
また明日。
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