第1章

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「今………何つった?」  夏真っ只中の7月中旬の昼下がり。 季節に似合わぬ学ランを羽織った大柄の男……十村 朋慈はそう言った。 「聞こえなかったの? この件から手を引きなさい。団長からの命令よ」  駅の椅子に腰掛ける少女………イヅナはそう答える。 手に小さな文庫本を携えて―――。 「アイツらは俺の獲物だ!団長だってそう言ってたろ!?」 「二回も命令違反、おまけに負けてノコノコ帰ってきた口が良く言えたわね。  顔に泥を塗られた上司(こっち)の身にもなってほしいわ」  彼女は十村に見向きもしない。 ただ冷たく―――ただ無関心だった。  それに黙っていられるほど、十村は冷静ではない。 その拳を強く握り締める。 「………てめえ……殺すぞ」 「殺す?」  イヅナは顔を上げた。 その眼は威圧感に揺れ、全身からは見た目に似合わぬ覇気を発する。 「…っ……!」 「団長から【番号】も貰っていないヒヨっ子が良く言えたものね。  【番号無】のあなたがどうやって【序列7位】の私を殺そうと言うのかしら?」  全身が硬直した。 蛇に睨まれた蛙と言うべきか………。  体を動かすどころか、声も出せずにただ喉から乾いた息を吐き出すだけだ。  目の前の………あまりに華奢な少女に勝てる気がしない。  ―――ここまで差があると言うのか………。  刹那。 電車の気配を感じると、いつの間にかイヅナからの威圧感が無くなっていることに気がついた。 「―――『彼ら』の行動はしばらく放置。三度目の命令違反は許されない」  少女は文庫本を閉じるとホームに向かう。 すれ違う際、静かに言った。 「気に食わないなら死ぬ気で強くなりなさい。  これ以上【リアフ】の名を汚さないで」    ―――離れる電車の音と蝉の鳴き声を身に受け、十村は拳を握る。 「………クソッタレが…」  そこからの滴る一滴の血が、真夏の床を静かに汚した。
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