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かつて千葉県のいすみ市にアスミという名前の少女がいた。
彼女は読心の能力者で、近くにいる者の思考が自分に流れ込むような感じで、相手の思いを正しく読み取ることが出来るのであった。
思春期にもなると、この特異な能力と他人との差異を恐れ始め、思考が筒抜けであるのがばれないように気をつけた。そのため彼女は至って寡黙となり、思いを外に出せることのない学生生活を強いられることになった。
素直になれない彼女では――悲しいかな――心を開ける友ができなかった。そのため書物を開き、心なき思念の文字を友の代わりにして過ごすのであった。
私は駅舎の中で、目の前にいる学生にそんな架空の少女を空想した。
私はそのいすみらしき少女の膝にかかる日の光に見とれていたわけだが、少女は私をいやねという目つきで睨むと、こう吐き捨てた。
「ついさっき出てったばかりよ」
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