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「猫といえば」と白川君がぽそりと呟いた。
「あら、奇遇ね」と黒山さんは微笑んだ。「私もきっと同じことを考えているわ」
「吉祥寺の猫神様」と二人は声を揃えて言った。
さて、吉祥寺の猫神様とは一体何者であろうか。
ここ最近、東京近郊で「百発百中。絶対に当たる」と話題になっている占い師のことである。占い師というのは語弊があるかもしれない。なぜなら、占っているのは齢百歳を越える化け猫であるとの噂であるからだ。もし本当にそうであるなら、正しくは占い猫ということになる。吉祥寺の猫神様とは、最近話題の占い猫である。
名前にあるとおり、東京都武蔵野市吉祥寺が本拠地である。吉祥寺駅北口ロータリーから北北東の方向に「サンロード」と呼ばれる商店街が伸びている。全長三〇〇メートルに及ぶ吉祥寺のメインストリートである。そのサンロード商店街にある古いビルの三階のフロアを「猫又組」という団体が借りており、猫神様はそこで占い業を営んでいた。
ただし、吉祥寺のビルには「伝奏」と呼ばれる代理人がいるだけである。伝奏が占いの依頼を受けつけ、占いの結果を伝えるのである。猫神様本人は決して姿を見せず、声を聞かせることもない。どこにいるのかも分からない。猫神様について尋ねると、「申し訳ありませんが、何もお教えできないのです。そういう決まりなのです」との返事である。そうした事情から、「猫神様は実は人間ではない。化け猫なのだ」とまことしやかに囁かれているのであった。
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