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「実は宇宙人だったりして」
「妖怪はいるはずないのに、宇宙人はいるの?」
「だって、宇宙は広いのよ。どこかには生物がいるかもしれないじゃない。それに地球人だって宇宙人よ」
「屁理屈じゃないか。僕も宇宙人?」
「うん、宇宙人。そして、私も宇宙人。吾輩は宇宙人である。名前はまだ無い。猫神様は猫である?」
白川君と黒山さんは他愛もない会話をしながら上野公園を歩いていく。同じく散歩をしていた近所の老夫婦は「私たちにもあんな時代があったわね」と笑みを零した。二人は花園稲荷神社までやってくると、跳ねるような足取りで参道を進んでいく。京都の伏見稲荷大社ほどではないが、参道には鮮やかな朱色の鳥居が立ち並んでいる。ひとつ、またひとつと鳥居をくぐるごとに、日常から遠ざかっていくような気がした。
「なんだか違う世界に来たみたいね」と黒山さんがうっとりとした表情で言う。
「二人一緒ならどこへでも、どこまでも」と白川君が迷いのない口調で答える。
神前にて手を合わせる二人は何を祈るのか。もちろん、お互いの健康安泰と二人の幸せな未来である。閉じた瞼の裏には希望の光に満ちた未来予想図が映っている。ついでに「猫神様の正体を暴けますように」と願っておいた。しばらくして顔を上げた二人は「黒山さんは何をお願いしたの?」「秘密。白川君は?」「じゃあ、秘密」と恋人らしい意味のない会話をして微笑みあった。見るからに幸せそうであった。幸せなのであった。
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