第一章

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 ちょうどその頃、東京都台東区上野公園にて、二十代半ばの男女が腕を絡ませ、肩を寄せ合いながら不忍池のほとりを歩いていた。ベージュのチノパンに青のポロシャツ姿の爽やかな男性と、白のノースリーブニットに花模様のプリッツスカートをはいた可愛らしい女性である。  青空には雲ひとつなく、池には蓮の葉が生い茂り、警戒心のない鳩が足元を行ったり来たりしている。そよ風が彼の短い髪をかすかに撫で、彼女の長い髪をふわりと揺らしていった。二人は見つめあって柔らかな笑みを浮かべた。 「今日も素敵な一日になりそうだね」  穏やかそうな彼が言う。名前を白川佑太という。 「今日も素敵な一日になるに違いないわ」  少し気の強そうな彼女が答える。名前を黒山佐和子という。  白川君と黒山さんは付き合って一年半になるカップルである。半年前から同棲しており、毎朝どこかに散歩に出かけるのが日課であった。見るからに幸せそうである。幸せなのである。  彼らのことを「リア充め、爆発しろ」などと妬んではならない。他人の幸せを喜べるものだけが幸せになれるのだ。他人の不幸は蜜の味などという思考が既に不幸なのである。見よ、あの微笑ましい二人の姿を。前途洋々たる未来を信じて疑わない二人を祝福しようではないか。二人の行く末が順風満帆なることを祈って乾杯を捧げようではないか。そして、声を大にして叫ぶのである。リア充め、爆発しろ!
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