第一章

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「しかし、今日は暑くなりそうだ」 「そうね。今も少し暑いくらいだもの」  白川君は燦然と輝く太陽を眺め、黒山さんは左手で顔を扇いだ。右手は白川くんの左手に絡んだままだ。  今、彼らに対して「その腕を解いて距離をとれば少しは涼しくなるのではないか」と疑問を抱いた方々がいるかもしれない。そういうことではないのだ。恋愛というものは合理性や効率性を基準に考えてはならないのである。「そんなにくっついて歩きづらくないの?」「暑いなら離れればいいのに」などと冷静な指摘をするのは野暮というものだ。 「そういえば」と黒山さんが話しかける。「今日の乙女座のラッキースポットは神社らしいわ」 「いつもの占い? 乙女座は何位だった?」 「最下位。やることなすこと大失敗。神社を訪れれば万事快調でしょう」 「それは大変だ。花園稲荷にでも寄っていこうか」  いつもの占いとは、黒山さんが登録している無料の占いサービスのことである。メールアドレスと生年月日を入力すれば、毎朝メールマガジンが届いて今日一日の運勢を教えてくれる。ラッキーアイテムやらラッキースポットやらラッキーカラーやらも教えてくれる。ちなみに、白川君と黒山さんは二人とも乙女座である。  たかが占いと侮るなかれ。この占いが白川君と黒山さんが付き合うきっかけをつくったのだ。  だからといって、白川君も黒山さんも心から占いを信じているわけではない。二人の恋のキューピットになってくれたことへの感謝と、二人の愛が永遠でありますようにという願掛けをこめて、できるかぎりにおいて占いのアドバイスを実行するようにしているのである。
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