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「籠島様」
ーーだった。確かに、『先生』以外の呼び方なら、ある程度は許すつもりではいたけれど、まさか様付けで呼ばれることになるとは思ってもみなかった。
緑ヶ丘椚ーーつくづく、予想の斜め上を行く少女である。
「籠島様」
同様に、この呼ばれ方は別の人物からもされるようになった。
海津行路。
英国紳士を連想させる、皺一つないピッシリとしたスーツを身に纏った中年の男性だ。
「この度は、私めの依頼をお受けくださり、誠にありがとうございます」
椅子に腰掛けながらも、深々と頭を下げる海津。年齢では籠島の3倍はあるだろうにーー籠島回路の実績を知る者からすれば、しかし、その礼儀正しさも相当なものなのだろう。
「それで、あの……」
そして、視線を何度か籠島の隣に移しながらも、本題に入ろうとした海津ではあったが、やはり、気になることがあるとどうしても集中出来ないらしかった。
「ああ、気にしないでくださいーーとは言え、無理な話ですか。彼女は私の新しい助手なのですがーー」
と、籠島も視線を隣に座っている新しい助手に向ける。
「緑ヶ丘椚と言います、よろしくお願いします」
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