第1章

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自分が通っていた小学校には、いわゆる「学校の怪談」があった。 そのひとつが、「4階の音楽室には、怪異が起こる」というもので、放課後は音楽部以外の生徒が近づくことはなかった。 これはある年、合唱大会を控えた音楽部の女子生徒が、夏休み練習で体験した話。 「そういえば音楽室って出るんだよね」 「ちょっと、そういう話はやめてよ」 「写真が動くらしいよ~」 練習を終えた女子生徒たちが、帰り支度をしながら音楽室の噂話に興じていた。 「長居するとヤバいよ。先生もうるさいし、そろそろ帰ろう」 部長がみんなを促し、学校を出ようと音楽室の鍵を閉めているとき、 「私、帰る前にトイレ行きたい」と一人の女子生徒が立ち上がった 「あ、私も」 こうなると連鎖反応。2、3人の生徒が、音楽室向かいにあるトイレへ。残った生徒は音楽室前で待っていた。 その時、待機組一人が人の気配に気がついた。 パタパタパタパタ…… 誰かが廊下の先から音楽室に向かって走ってくる。 彼女が足音の方へ眼を向けると、人影がサッとトイレに消えた。 「あれ?」 「どうしたの」 「今、トイレに誰か入ったみたい……」 「えっ? 」 どうやら他の生徒は気づかなかったようだ …… その頃、トイレには奥の個室を残して生徒が入っていた。 パタパタパタ…… 「あれ? 誰かまた入ったのかな」 奥から3番目の個室にいた生徒が、足音に気づいた。 「水……み……ず」 個室の前を通りすぎるとき、彼女はそんな言葉を耳にしたそうだ。か細く消え入りそうな声。それは奥から2番目の個室にいた女子生徒にも聞こえていた。 「 水? 今の何?」 「○ちゃんも? 何か言いながら入ってきたよね」 その時、奥の個室のドアがばたん……と閉まり、鍵がかかった。 誰かがトイレに入っただけのこと……そう思いつつも、二人は説明のつかない不安に襲われた。 急いでトイレから出ると、気になって奥の個室を見る。 「!!」 確かにドアが閉まり、施錠の音を聞いたはずなのに、 奥のトイレは開いたまま。誰もいない。
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