第1章

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「あなたのせいだからね」  不意に妻が言った。  のどの渇きと空腹と暑さのせいで苛立っていた俺は彼女を睨む。 「俺のせいってなんだよ」 「だって、あなたがこんな国に旅行に来たいなんて言わなきゃ、こんなことにはなってなかったのよ」 「しょうがないだろ。誰もこんなことになるなんて思わなかったんだから」  俺の言葉に妻は「フン」と不貞腐れた顔を見せる。その横顔が神経を逆なでする。 「こんなことならさ、いっそ一思いに殺してくれたほうがよかったかもな」  腹立ち紛れの俺の言葉に妻はなんの反応も見せない。どうやら完全に怒ってしまったようだ。
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