第1章

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しばらく険悪な空気が続いた。やがて「ねえ」とつっけんどんに妻が言う。 「いつまでこんなところにいるのよ?」 「知らねえよ」と俺の口調も無意識のうちに荒くなる。 「助けが来るまでだろ。来なきゃ死ぬだけだ」 「いやよ、こんなところで死ぬなんて」  彼女は目をむいて抗議する。 「どこか行きましょうよ。行けば何かあるかもよ」 「やだよ。暑いし。それに当てもなくうろちょろしても体力が奪われるだけだ。それならここでじっとして、助けが来るのを待つほうがいい」 「でも助けなんてくるの?私たちがこんなことになっているなんて、誰も知らないのよ」 「じゃあ現地の人が誰か通りかかるだけでもいいだろう。飛行機でもヘリでも飛んでくりゃ俺たちを見つけてくれるよ」 「それだっていつになるかわかんないじゃない」  ことごとく反論してくる妻に、さらに苛立ちが募った俺は思わず口走る。
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