第1章

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「だったらお前ひとりで行けよ」  妻の顔色が変わった。彼女の頬が怒りで小刻みに震える。 「いいわよ。行くわよ。私一人で」  私一人で、の部分を強調するように言って妻は立ち上がる。そのまま振り返りもせずに立ち去ろうとする彼女を「おい」と呼び止めた。 「一応言っておくけど、何か見つけたらここに戻って来いよな」  振り返った妻は呆れたように「はいはい」と言ってから、 「じゃあ私も言うけど、ここを誰かが通りかかったら、すぐに探しに来てよね」  と挑むように俺を睨んだ。 「了解」と茶化すように敬礼してみせると、彼女つんとそっぽを向いて歩き始めた。
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