第1章

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 妻の姿が見えなくなってからどれくらい経っただろう。申し訳程度にできた岩陰に身を隠していても、じりじりと照りつける太陽は容赦なく俺の体から水分を奪っていく。  朦朧としながら辺りに目を向ける。誰も来ない。人間どころか生き物の姿も見えない。動くものはなに一つない……と思っていたら、あった。陽炎のようにゆらゆらと揺れながら、何かがこちらに向かってくる。  慌てて立ち上がるつもりが、自分でも気づかぬうちにかなり体力が落ちていたらしく、ふらふらとよろけて転んでしまう。岩を頼りに何とか立ち上がり、思い切り手を振った。  どうやら相手も俺に気づいてくれたようで、こちらに手を振り返してくる。  助かった。なんとかギリギリ間に合った……と安堵の息を吐きながら、俺はその場に崩れ落ちた。
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