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はじまりの丘。 そこにある墓は二つ、それ以外は何一つない。訂正すると元々はあったが今は既にない。 誰が眠っているのか、時が流れ風化してしまった墓石の文字は誰も読み取ることはできないだろうし、誰も今までそうしようとしたものはいなかった。 一つの墓には一振りの刀が飾られていた。柄は流れる血のように赤いルビーと紺碧な空を交互に張り合わせたような色。目を奪われるかと思うほど美しかったがそれを打ち消すほど長年の雨風によって劣化を続けていた刀は見るも無惨なほど錆びきっていた。 また、一つの墓には美しい女性が祈りを捧げていた。その女性は言葉ではどう例えれば良いだろう。確かに美しいが何か人離れした美しさである。その女性を見ていると自分が女を見ているというよりは絵画を眺めている感覚に陥る。そんな不思議な魅力があった。 女性は両の手を合わせ白く細い指で重ね合わせた手を包み込み祈りを捧げた。時間にするととても長く感じるが一瞬にも感じられる。その場所では時間の経過を誰が他人が決めたものに縛られる必要なないらしい。 彼女はじっと墓を眺めていた。その瞳は優しくそして妖艶。彼女は愛しいものに触れるように墓を二度撫でると懐から花を取り出す。彼女が次にとった行動は以外だった。普通は、いや、一般常識的にはあれほど大事そうに扱っていたのにも関わらず、彼女は突然しなければならない用事を思い出したかのというほど素早く立ち上がる手を持った花をちぎっては投げちぎっては投げ。 気がつくと、彼女の気が済む前に手元の花は無くなり、彼女は酷く悲しんだ。もしかしたら怒っていたのかもしれない。それは彼女にしかわからないことだけれど、彼女がそのことを誰かに話すだろうか。まぁ、それは彼女自身の選択だろうから全ては彼女に任せよう。 しかし奇妙なこともあるものだ。先程まであんなにも優しそうだった彼女の顔は今や儚く見える。一見ぶれているようにも見える彼女だが最後まで視線を何も飾られていない墓からそらすことはなかった。 二つの墓の周りには花が蝶のように舞っていた。 ___トリカブト。 ___その花言葉は ___復讐。
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