第1章

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いつもの電車のいつもの席で、私は今日も本を読んでいた。 この電車には滅多に人が乗ってこないから、珍しいこともあるんだなって驚いた。 「ねぇねぇ」 一人の男の子が目の前に立って、声をかけてきた。 「どうしたの?」 人と関わることがどうも苦手な私にとっては子供だろうと話し掛けられるのは気が乗らなかった。 「この電車は、どこに行くのかな」 それは終点はどこかと聞いているのだろうか。何にせよそんなことは乗る前に確認しなくちゃ手遅れになることもあるだろうに。 「・・・あなたはどこに行きたいの?」 この電車の行き先を伝えるより彼がどこに行きたいかを聞いた方がいいと思い、尋ねた。 「僕の居場所を、探してるんだ」 「・・・居場所?」 彼は頷くと、小さく笑ってこう言った。 「この電車が向かった先にはあるかなあ。僕が"いてもいいよ"って言ってもらえる場所・・・」 彼の笑顔は、どこか泣いているようだった。
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