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殺気は全くない……。
その言葉を聞いてから、奴らの声が聞こえてこなくなった。
そっと振り返ると、溝の向こうに奴らの姿はない。
俺はバカか。敵をみすみす逃がすなんて。
戦争だぞ? これは。
考えても、敵はいなくなったんだからしょうがない。
俺は比良がいる場所へ戻った。
肩から先が無くなり、足も自慢のフライシューズもボロボロだ。
これも奴がやったんだよな。
逃がしたのは本当に正解だったのか……?
比良はうっすらと目を開いている。
「おい。生きてるか?」
俺の言葉に反応し、比良が口を開いた。
「勿論……っす!」
どうやら、まだ大丈夫そうだな。
「敵は倒しましたか?」
「……ああ」
俺は嘘をついた。でも何故か心の中は悪い嘘じゃないような気がしたんだ。
「帰るぞ。屯所がどうなってるかわからないし、おそらく戦闘中だろ。お前は卑弥呼に治療してもらって、ゆっくり休め」
「了解……っす。オラ、クタクタです」
「全く……俺もだよ」
俺は比良を背負い、フライシューズで飛び立った。
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