第1章

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 三日目。  三度目の正直を信じて、真央はその日も出かける前にバッグの中にタオルで包んであるプレゼントを確認した。  実際、練習が始まれば上村を探す余裕など無くただ必死にオールを漕ぐだけなのだが、やはり目の端で大学ボート部の練習着の色を探してしまう。  恥ずかしいと言っていたグレコタイプの水着姿が見当たらなくてほうっと溜息をつくと、岸でタイムを計っているコーチから指導の声が聞こえてきた。  慌ててオールを握る手に力を込めるもその時のタイムは散々なものだった。 「こんな事なら・・・」  告白なんか、されるんじゃなかった。  会えないことにイラついて友達に当たってみたり、県大会が近いのに練習にも身が入らなくなってきている。  その日の練習が終わると、真央は友達の誘いを振り切って自転車を漕ぎ出した。 「ハンバーガーセット、ドリンクはコーラ。あと単品でチーズバーガー1個ください」  練習で身体を動かしても晴れなかった胸のモヤモヤは食べて抑えてしまおうと、真央は一人で駅近くのバーガーショップに来た。  予定外のプレゼントが痛い出費で財布の中身が心もとなかったのだが、こうでもしないと気持ちが切り替わらないような気がしたからだ。  しゃべる相手もいないので短い時間で完食し、トレイを片付けようと立ったら丁度店員がゴミ箱の清掃を行っているところだった。 「あの、これ・・・ごちそうさまでした」  綺麗になったばかりのところをいきなり汚す事に気がひけて、真央は恐る恐る店員に声をかけた。 「ああ、こちらに頂きます」  ゴミ袋の口を閉じようとしていた男性店員が手を差し出して二人の視線が合った。 「あ!」 「あ・・・」  先に声をあげたのは真央の方で、続けて男性店員が控えめに応えた。 「あの時の・・」  そういえば、と真央は思い出していた。  自転車の鍵を失くした日、一人で探していた真央に声をかけてきた男がこの店で働いていたのだ。 「あ、あの・・・あの時の自転車の鍵なんですけど、あそこで練習していた大学のボート部の人が拾ってくれて、それで次の日届けてくれたんです」  別にこの男にここまで詳細を話す必要も無かったのだが、一旦開いた真央の口は止まらなかった。 「よかったですね、見つかって」
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